ホーム>なぜ天然酵母なの?

はじめに

  そもそも、私は米屋の3代目。そんな私がパン屋を始めたのは、「パン屋さんをやりたい」「こんなパンをつくってみたい」という子供のころからの夢を実現したかったからです。

  夢に向かってがむしゃらにベーカーリーを開店したのが20年数前。
店舗の工事が完成に近づくにつれ、わくわくした気持ちになったことを今でも覚えています。
しかし実際にスタートしてみると、パン屋さんという職業は甘いものではありませんでした。

  当時は、焼きたてのパンを並べるベーカーリーもまだ少なかった時代。多くの失敗もしましたが、めげずに続けてこれたのは、開店前から毎日パンを買いに来ていただいた地元大阪の下町のお客様のおかげですが、やはりパン屋が好き、パン作りが楽しいというスタート時のモチベーションが大きいと思っています。

  ベーカリーを始めて当初は、業者から冷凍生地を仕入れてお店で焼くというスタイルでした。ところが、これだと生地の種類も味も限りがあります。そこで粉を仕入れ、ミキサーを回してパンをつくるようになりました。しかし、レシピ通りに材料を揃えて焼けばいい、というものでもなく、ここでも失敗の連続。やがて、どうにかオリジナルのパンも焼けるようになり、宅配や移動販売にも進出しました。営業的には、ようやく軌道にのりかけてきました。

天然酵母との出会い

  「天然酵母」という言葉が気になり始めたのは、 「何のためのパン作りなのか」「誰のためのパン作りなのか」という根本的なことと向き合い始めた時期でした。

  それまではイーストを使ってパン作りをしてきましたが、極端な話、放っておいてもパンはできるのです。それは、大量に均質に、そして簡単にパンを作るために「イースト」が作られているからです。丹精込めたパンからイースト臭が抜けないのも気掛かりでした。

  そう思うと猪突猛進!大方向転換へと走り出していました。
「もう一度、パン作りの原点に戻ろう。誰も作っていない天然酵母パンを焼いてみよう」
こうして新たな格闘が始まりました。

  しかし、始めてみると驚きと疑念の連続。
まず面くらったのが長時間発酵というパン作りの「リズム」の違い。そして長時間ゆえに大きい温度や湿度などの微妙な「環境」の影響!リズム、環境・・・この2つの要因と向きあい始めたときに、超えられないものを感じました。大げさに言えば自らのすべてをかけて向き合うしかないというほどの気持ちに襲われました。

「天職発想」〜天然酵母へのこだわり

  そのときに浮かんだのが「天職発想」です。
「もともとパン作りが好きではじめた仕事なのだ」「パン屋は天職なのだ」と開き直り、この発想からパン作りと向きあおうと決めると気持ちが楽になりました。

  肩肘張らずに素直にパン作りを行う。相手のリズムに合わせる。なるようになるし、また、なるべきようになる。それは天然酵母のリズムと付き合うこと、そのリズムを感じることであり、つまり生活するリズムの中に天然酵母を取り込み、包み込むことだと気づいたのです。この「発想」から意外にも、天然酵母パン作りがスムーズに運び始めました。

  焼きあがるパンも材料の風味と旨みが際立ち、イースト臭も解消されました。
ベーカリー業界に目を向ければ、日本のパン売上額の7割以上を大手パンメーカーが占め、残りを街のパン屋さんが担っている現状です。そのなかで、天然酵母を使ってパン作りをしているところは少数派です。日本のパンはほとんどがイーストを使ったパンということができます。

  考えてみると、現状は消費者にとっては不幸といわざるを得ません。材料の組み合わせこそ豊富で、バラエティあふれるパンが店頭に並んでいますが、素材本来の旨みはイーストを使ったパンではできていません。言葉をかえれば、手間暇をかけないとおいしいパンはできないのです。

  なぜ、天然酵母でパン作りをするのか?
それはパン生地に香ばしさを与えるためであり、小麦粉をはじめ、その他の原材料がもつおいしさを実感できるからです。

のろくても、おそくても・・・

天然酵母を使ったパン作りは軌道にのり、講習会やパン作り教室などで積極的にレシピを公開しました。それらを通じてわかったのは、熱心に家庭で天然酵母パン作りをする人たちがいるということでした。なぜ家庭でパン作りをするのか。それも手間暇かかる天然酵母でなぜ行うのか。

「自然志向」や「健康志向」も理由の一つです。
でも寄せられる質問からは、もっと他の理由がありそうです。
ひとつは「本物志向」です。材料のもつ自然な旨さが支持されています。
もうひとつは、家庭で天然酵母を使ってパン作りする「リズム」そのものが求められていることです。天然酵母を使ったパン作りはよく「子育て」に例えられます。暑いときはエアコンをつけ、寒いとき重ね着をするように細心の注意を払い、どんな気まぐれも「愛情」で包み込み、成長を見守る。もちろん失敗もありますが、めげずに根気強く付き合っていく。大げさかもしれませんがこれこそほんとうの「パン文化」ではないでしょうか?

これからも、聖庵では原材料のおいしさを実感できる「本物志向」の「愛情」で包み込んだパンを作り続けていきたいと思っています。

〜のろくても、おそくても自然の流れの中で造り続けたいと願っております〜